―― 東方壊異譚 序 ――


地の底から温泉と共に怨霊が溢れ出すという奇妙な
異変が解決してから、しばらく経ったある日の午後。

終わってみればそれはただ近所に温泉が湧いた程度の
異変でしかなく、解決前から変わったことといえば、
神社に黒猫が一匹餌をたかりにくるようになっただけ。


喉元過ぎればなんとやら。

先の異変も、かつて幻想郷を騒がせた異変の数々も、
今となっては過ぎ去った祭りの日のように忘れられ、
幻想郷は平穏な日常へと回帰を果たしていた。


平穏な日常が戻ってきたのだと、誰もがそう思っていた。


いつからそれは始まっていたのか。

果たしてその運命を回避する術はあったのか。

博麗の巫女も、運命を操る吸血鬼も、
幻想郷の裏側を覗く、スキマ妖怪さえも……


今はまだ、誰も気付いてはいない。

幻想郷を混沌へと導く異変は、静かに静かに幕を開けた。